シンプルさは、複雑で数多くの試みを前提とした理想の極限であること

 今日はヴァレリーの「コローをめぐって」の続きをp.1333の下から10行目まで読みました。ドラクロワと比べると控え目に見えるコローですが、その精神の特徴を一言でいえば「シンプルさ」であるとヴァレリーは言います。しかし、この「シンプルさ」は芸術の方法ではなく、むしろ逆に、目的、理想の極限であるとヴァレリーは強調しています。複雑なあれこれの事柄やたくさんの可能な眼差しや試み、そうしたものが還元され、汲み尽くされて、最終的に、その芸術家にとって本質的に重要な或る形や行動形式に置き換えられる。このような「シンプルさ」はたいへんな努力の積み重ねの末に、毎回の努力の果てに見出される境地であるようです。コローは生涯、悦びをもって苦しんだ、というヴァレリーのオクシモロンは興味深い一句です。このコローの「シンプルさ」に通じるひとつの具体的な比喩的事例として言及されるのが馬術教師ボーシェの完璧な「並足」のエピソードですが、それはまた来週の話題といたしましょう。