「コローをめぐって」はヴァレリー芸術論の宝庫!

本日でヴァレリーの「コローをめぐって」をひととおり読了いたしました。最後の4頁ほどは、既視感があると思ったら、書かれている内容が『ドガ ダンス デッサン』のなかの断章「風景画とその他多くのことがらについての省察」とそれに続く断章「現代芸術と大…

問題設定は自分にしかできないということ

前回は論文を書く前提となる問題意識の醸成や問題設定の仕方についてあれこれと話をしましたが、ポイントは、いろいろな先行研究を調べて状況を整理したあとは、自分で問題を設定し、自分で研究を進めていくしかない、ということでした。研究は他のひとに代…

オリジナル状態に戻して読むことの大切さについて

ヴァレリーの「コローをめぐって」を読んでいます。前に読んだ『ドガ ダンス デッサン』にせよ、「マネの勝利」にせよ、今皆さんと一緒に読んでいる「コローをめぐって」にせよ、いずれも最初は、ドガの絵と一緒にならんでいたり、マネ展のカタログの序文だ…

〇〇と〇〇

パラレルシュテレンメトーデ(比較断章法)の実践練習に入りました。まず私のほうから「ヴァレリーとデカルト」という比較断章法を使ったコメント例を紹介しました。共通する表現やテーゼが同じであればあるほど、説得度が増すことは言うまでもありません。…

ミケランジェロの詩

ヴァレリーのコロー論も後半に入ってきました。自発的自然(自由闊達)は征服の果実であるというオクシモロン的一句について、ヴァレリーは得意の言説を展開します。p. 1339の内容は、すでにみたp. 1333のシンプルさの定義の部分と同じです。馬術の達人ボー…

失敗談

1999年発表の論文で私はヴァレリーによる或る引用文が加工を施されていると指摘し、その加工はヴァレリーのテクストの主張に沿ったものであると結論しました。2005年、新資料が発表されて、じつはヴァレリーが依拠したテクストは脚注でヴァレリー自身がその…

美的経験の一般的分析

コロー論を読み進めて来て、突然、高度に抽象的な美的経験論が開示される箇所に突き当たり、今日はその箇所のテクストの模様を丁寧に眺めてみました。使った方法は昨日触れた「比較断章法」というやつです。テクストのかたまりがある程度大きいマクロ的な比…

比較断章法(パラレルシュテレンメトーデ)

先週お配りした「二つのテクストを並べて読む」ことの実践例として、ボードレールの「駄目なガラス屋」というテクストを、まず積極的受容論の観点から、エドガー・ポーの「天邪鬼」と比較し、その形式と内容の類似点に着目して、ボードレールのテクストがポ…

研究方法における流行の問題

コンパニョン『文学の第三共和政』の第二部の後半を読み進めています。今日は『ブヴァールとペキュシェ』における歴史・政治の問題という研究の観点について、コンパニョンさんが1980年代の初めに次のように言っていた点に注目しました。「フローベールの政…

コローの眼は深い!

ヴァレリーのコロー論の続きです。今日読んだところでは、完全写実派(書かれてはいないけれどもメソニエ系)、写実感覚派(コロー系)、要素再構成派(ドラクロワ系)の三分類が記されたあとで、自然を描くコローの凄いところについて、ヴァレリーはたいへ…

二つのテクストを並べて読む

振り返ってみると、私がこれまでに書いてきた論文の多くは、二つのテクストを並べて読む経験、あるテクストに別のテクストを重ね、相互の反響・照応・対話から読み取ったことがらを言葉に記したものだった、ということに気づきます。 私の学部卒業論文は、フ…

『ブヴァールとペキュシェ』は『政治教育』である

コンパニョンさんの『文学の第三共和政』第2部後半のフローベール論に入って第二回目となります。フローベールの『ブヴァールとペキュシェ』と『感情教育』という二つの作品の執筆計画は一八六三年において競合していたけれども、結局フローベールは『感情教…

完璧なケンタウロスがやってくる!

コロー論の続きです。p. 1333の下のほうで語られるボーシェのエピソードはヴァレリーのお気に入りの話で、このコロー論だけでなくドガ論のなかでも言及されます。複雑をきわめた事物と数多くの試みの末に到達するシンプルさの境地とはすなわち理想の極限点で…

翻訳のない最新の基本文献は宝の山!

今日は、あくまでもフランス語原文の正確な解釈に努力するのが第一になすべきことであって、直接的な研究の対象とはならない翻訳との付き合いはほどほどに、というお話から始めました。続いて、原文が大事といっても、その原文テクストそのものが揺れ動く場…

『ブヴァールとペキュシェ』第6章「政治」の章をめぐる考察

コンパニョン『文学の第三共和政』の内容を読み取る授業の続きです。今日はp. 257の*の前まで、読みました。第6章の前では二人の好人物は幸せでしたが、第6章のあと幸せではなくなります。ブルジョワ社会の愚劣さに気づく前と後、その中間に来る事件とは何…

シンプルさは、複雑で数多くの試みを前提とした理想の極限であること

今日はヴァレリーの「コローをめぐって」の続きをp.1333の下から10行目まで読みました。ドラクロワと比べると控え目に見えるコローですが、その精神の特徴を一言でいえば「シンプルさ」であるとヴァレリーは言います。しかし、この「シンプルさ」は芸術の方…

「書誌が最初で、序論が最後」が論文執筆の本当の順序

休み明けの今日は、前回の補足として、書誌(参考文献・文献目録)の重要性についてお話しているうちに、それで終わってしまいました。ランソンの弟子筋にあたるであろうエミール・ブーヴィエとピエール・ジュールダの『フランス文学学生要覧』(初版1936年…

「内面の書物」のなかで作者・読者・書物は溶け合う

今日は『文学の第三共和政』第2部の前半部プルースト論の第9節を解説しました。プルーストの書物論では「作者、読者、そして書物は、それぞれの同一性を失い、互いに廃棄し合って、あの我々ひとりひとりの《内面の書物》、そのレクチュールがエクリチュール…

効果理論派から遠く離れて、コローおじさんは平和!

今日も「コローをめぐって」の続きです。p.1332の真ん中まで、読みました。ヴァレリーによるコローの肖像が、対照法(コントラスト)によって、浮き彫りにされていきます。コローと対極的な位置に置かれているのが、ドラクロワ(音楽家ならばワグナー、詩人…

中庸の倫理から希望的文献目録へ

今日も前回の続きで、研究とは何なのだろう、という基本問題を意識しながら、外材批評と内在批評、コンテクスト重視の研究とテクスト重視の研究という、テクストを扱ううえでの両極端の視点が、ジャルティさんによれば、今や、そうした二項対立は積極的に乗…

内面のヴィジョンを読んで書く―プルーストの美学

今日は第8節の続きを読み、説明しました。「読書について」と「サント=ブーヴに反論する」という二つのテクストから、ヴィジョンの美学について引用される文はいずれもプルーストの魅力的な創作論、天才論を示すものになっています。文は人なり、というのは…

氷の荒野にオジグ登場

今日はp.21の一番下まで、読みました。冒頭からおよそ一頁半にわたって半過去一色。半過去の基準点より以前に生起した事象を記す大過去も含めて、ひたすら描写につぐ描写でした。写真の並列、あるいは、動画的な各種ショットの連続的な提示により、荒涼とし…

どのように書かれているのか、ヴァレリーの文章芸をしっかり見る

今日はヴァレリーのコロー論「コローをめぐって」の読みの続きで、テクストp.1331の真ん中下の行空きのところまで、読みました。息の長い文が「3」(要素をかならず3つ挙げる)のリズムで展開されていること、一か所リズムが少し乱れているところ(avancer…

火2『理論の魔―文学と常識―』を読みながら文学研究について考える

パリのノートルダム大聖堂が火事――というニュースにショックを受けつつ、淡々と第二回目の話をしました。今日は、前回読んだ内在的方法と外在的方法の諸相について、私自身の経験をもとに、話を展開してみました。「美しい」読書体験は基本として共有しなが…

木2フランス文学各論I&特論I

開講しました。アントワーヌ・コンパニョン著『文学の第三共和政』を律儀に読み、解説する授業です。今期が4期目となります。学期初めの今日は、新たな受講者の方々のために、この本の目次を眺めながら、これまでの経緯を概説しました。そのあと、さっそく第…

水4フランス文学基礎講読I

開講しました。初級文法を終えたばかりの方々がフランス文学の原文を読むために必要となるステップとして、ときどき、文法のやや詳しい説明や練習問題のプリントを配ることにしています。今日も、大過去について、詳しい説明と練習問題を経由してから、シュ…

水2フランス文学研究演習I

開講しました。大学院の授業です。前年度に引き続き、ヴァレリーの芸術論テクストを読みます。今回は1931年1月の講演をもとにした1932年発表の文章「コローをめぐって」(1934年刊行の『芸術論集』第2版所収)を読んでいきます。初回の今日は、ヴァレリーと…

火2フランス文学特論Ⅲ

開講しました。大学院生向けの授業です。アントワーヌ・コンパニョン著『文学をめぐる理論と常識』を読みながら、文学研究論文における問題設定のあり方について考えていきます。今日は、序章から「理論、批評、歴史」という一節を読み、内在批評と外在批評…

最終回の今日は、予定通り筆記試験を実施いたしました。皆さん、力作を提出されたようで、これから読ませていただくのが楽しみです。成績評価方法は授業の最初に申し上げた通り、出席2割+筆記試験8割となります。これから授業がない2月3月は比較的時間が持て…

最終回の今日は、無事「マネの勝利」のテクストを最後まで読み終えることができました。マネによるベルト・モリゾの肖像画が「詩」であることを、ヴァレリーは音楽に関係する単語を多用しながら、説明していきます。注目したいのは、調和ばかりでなく不協和…