今日は、最終回。先週に続いて、「コローをめぐって」のテクストを、p.158左側下から9行目まで、読みました。シンプルということの意味について、そして、コローにおける自然の位置について、味わい深い文章が続きます。人はそれぞれのキャリアがかなり進んだ段階でシンプルさの地点に到達し、そういうときに、その人の芸術観の全体を要約するような引き締まった文が発せられる、「自然に尋ねよ」というコローの一句はそういう言葉である、とヴァレリーはいいます。そのあとに紹介されている、ソーミュール馬術学校の有名な教師だったフランソワ・ボーシェの逸話は、実にいいですね。「完璧なケンタウロス」(ギリシャ神話に出てくる上半身が人間で下半身が馬の怪物。転じて、馬と一体となった名騎手)は、派手なギャロップではなく、「並足」で馬場を一周するだけですが、「ひとつのミスもなく」馬の歩行を完全に操ります。技量のシンプルさとはそういうものだとヴァレリーは例証したいのでしょう。以下、自然との関係に話題が進みます。コローは、自然を忠実に再現する画家たちと出発点を共有しますが、さらに一歩進んで、自分が感じるもの、自然によって引き起こされた〈印象〉を再現しようとする点で、自己の表現に向かっていることが指摘されます。そして、土(岩、石、砂、道の起伏を含めた総体としての土)の観察、擬人化されるまでに個性化された樹木の観察における徹底性が語られたところで、時間となりました。今年度、皆さんと一緒に、いろいろなテクストを読んできましたが、「ヴァレリーと美術」というテーマは、思った以上に広く深いことがわかってきましたので、新年度もこの授業を継続することにしました。新年度(4月13日開講予定)は、火曜日の3コマ目での授業となる予定です。ひとまずは一段落です。それでは、皆さんの力作レポート(2月2日提出締切)を楽しみに待っております。