今日は、1939年のエッセー「似ていることと芸術と」を、寺田透訳を参照しながら、途中まで(配付したテクストでいうと、p.226の右側8行目まで)読みました。前に読んだヴァレリーのエッセー「イタリアの芸術」(1935年)において見られた《現代芸術批判=古典主義美学礼賛》という構図が、このエッセーにおいても明らかです。「イタリアの芸術」ではイタリア古典絵画全般が対象でしたが、「似ていることと芸術と」では特に肖像画が問題となっています。若い頃、ルーヴルでフランス・ハルスの「デカルトの肖像」をマルセル・シュウォッブと一緒に見たときのエピソードなども交えながら、類似を条件とする肖像画の世界で、徹底的に技術を磨きつつ、同時に、画家としての個性的スタイルを実現するのが、巨匠たちの共通点である、とヴァレリーはいいます。巨匠たちにヴァレリーが語らせるせりふ《Plus je sais, plus je suis.》には、「芸術のメチエに秀でれば秀でるほど、私は自分の個性・独自性を高める」というニュアンスがあるでしょう。表現の条件(規則・約束事・規律)を守るということと個性の発揮は両立するのだとヴァレリーは主張し、そこに、芸術のあるべき姿を見出しています。やはり、古典主義的メチエの美学への支持は頑として変わらないようです。さて、今日は、全部読みきれませんでした。来週、残りを片付けます。フランス語原文のほう、ざっと見ておいてください。ついでに、1938年のエッセー「モンペリエ美術館」も読んでおいてくだされば幸いです。では、また来週。