今日は、セリーヌの『夜の果てへの旅』におけるパリと郊外の表象について、お話しました。ルーヴルを先端として、オートゥイユとテルヌを結んだ曲線を底辺とする「パリという都市の美味しいケーキの一切れ」とか、グルネル橋から眺めるビルアケム橋のメトロ通過の眺めとか、あるいは、モンマルトルのテルトル広場から眺める幻想シーンとか、パリの城壁の内部の描写も、もちろん、たくさん出てくるのですが、今回は、特に、郊外というトポスに注目しました。小説の後半で主人公が医師として働く「ガレンヌ=ランシイ」は虚実取り混ぜた固有名詞ですが、Rancyは明らかにranci(すえた/酸敗した)と結びつきます。おそらく現在のクリシーあたりが舞台と思われます。生活保護年金をもらうために肺病でありつづけたいと願う人々に触れた部分では、失業保険を目当てに仕事をしない人々がいる現在のフランスの現実が想起されました。しかし、『夜の果てへの旅』は悲惨な現実の描写ばかりではありません。時々、信じられないくらいの崇高さや美が、力強く描き出されます。急がず、細部の表現を味わっていただきたい、パリ郊外文学の傑作です。