今日は、まず、現代詩人ジャック・レダの『パリの廃墟』から「ブーランヴィリエ通りの古い駅舎に」で始まる「散歩詩」(レダのパリ散歩シリーズを仮にこう呼んでおきます)を読み、続いて、この詩で描かれた散歩コースを確認のために辿っている訳者の堀江敏幸さんの巧みな文章(『子午線を求めて』のなかの一節)を読んでみました。今年の概論では、パリをめぐる文学という、ゆるやかな関心を縦糸にして、いろいろなテクストを齧ってきました。最後にどうしてもレダの文章を紹介しておきたかったのは、レダ散文詩においては、パリ散歩そのものが抒情詩になっている、と思われたからです。淡々とした、そして、ユーモラスな記述のなかに、時折現われる、味わい深い考察、そこにほのみえる柔らかな批判精神といったものも、レダの文章の大きな魅力です。たとえば、「私が待っているのは、ふだんは通過という本来の機能に制限され、いわば――到着という、あるいは出発という行為のなかで――ぼんやりと、はやくも額や顎をつきだして個々の想いにふけっているひとびと全員の手で無効とされたこの場所[メトロの駅]を保養地(一、二時間を過ごす保養地)に見立てるのが、とても心地よいからである」(堀江訳)などという一節は、都市散歩詩人の極意を、さらりとですが、見事に語り尽くしているように思われます。言いたかったことはほぼ言ったと思うことにして、「概論」の本編は、本日でおしまいとなります。駄弁にお付き合いいただいた皆さんには、お詫びと感謝を申し上げます。
 さて来週は、筆記試験を行います。課題は以下の通りです。「20世紀後半のフランス文学の作品(ひとつないし複数)について、関心のあるテーマを設定し、1600字程度(多少の増減は許容)で自由に論じなさい。ただし、資料等の持込は不可とする。」皆さんの健闘を祈ります。