今日は、まず、先週紹介したデュラスの『モデラート・カンタービレ』の中から「西日」の描写をいくつか抜き出して、解説してみました。話を交わす二人の影が壁に繋がって映り、それが黒い穴のようになった、という部分は特に不吉な感じがよく出ていましたね。それから、1984年の自伝的小説『愛人』の中から、デュラス的想像界の特徴とも言える回想の時間・空間の多層的同時現前がうかがわれる部分と、左右対称的な語りが印象的な出発の部分を読んでみました。前者は、家族のことを回想しているうちに、物語の主軸である「愛人」とのことの回想になり、それが途切れて、突然、1943年頃、つまり、ドイツ占領下のパリの二人の謎めいた外国人女性(マリー=クロード・カーペンターとベッティ・フェルナンデーズ)の思い出が語られ、それが終わると再び、「愛人」の物語の時間に戻るという、少なくとも三つの時間と空間が、ほとんど同時的に現前している箇所なのですが、特に、占領下のパリの「がらんとした街」の感じが、リアルに感じられて、面白いなあと思いました。デュラスはけっして読みやすい作家ではないですけれども、そこに描かれる世界は奇妙に迫真的で、立体的であると感じました。さて、来週ですが、授業の終わりに触れましたように、ノーベル文学賞を受賞したル・クレジオの若い頃の短編小説集『発熱』(1965年)を紹介する予定です。