今日は、マルグリット・デュラスの『モデラート・カンタービレ』(1958年)を紹介しました。短いですが、密度の濃い象徴主義的小説という印象を持ちます。細部の表現に、実に見事と思われる部分がたくさんあります。たとえば、カフェでショーヴァンと話をし、酒を飲み続ける(アンヌは本当によく飲みます)時間帯が夕方ですから当然なのですが、ところどころに「西日」の描写が出てきます。いずれも、よく描きこまれていて、絵画的あるいは映画的な印象を与えます。それと、今日、強調したのは、場所の象徴的地理学です。海岸通りの垂直的南北線と防波堤の水平的東西線の交差、この横の線が、生きながらに死んでいるようなブルジョワジスムの空虚を象徴する北と、激しい生/性/愛/欲望の爆発を象徴する南(カフェとピアノ教室を入り口に持ち、さらに南の工場地帯のもくもくと渦巻く黒い煙の世界を背景に従えているエネルギー圏)とを、はっきり区別しているように思います(黒板に地図を書きました)。来週は、デュラスを決定的にポピュラー作家にしたベストセラー(といっても、読んでみればわかるように、難解な部分も多くある「純文学」です)『愛人』(1984年)について、お話してみたいと思います。これも、それほど長い小説ではありません。河出文庫版(清水徹訳)が入手しやすいと思います。是非、読んでみてください。