今日は、ホワイティングによる「ナルシスは語る」の注釈を、ざっと解説しました。同時に、作品を論じるときの基本的な作法として、比較の視点の重要性を強調させていただきました。ホワイティングの論文はフランス語によるものですが、用いる言語に関係なく、これから論文を書こうとする者にとって、参考になる点が多いと思います。詩作と同時期のルイスやジッド宛ての手紙に当時のヴァレリーの心的状態を探り、その反映を「ナルシスは語る」に読み取るという手続きは、自然です。言葉上の対応関係が特に明白だと、いっそう説得力も増します。たとえば、63頁で紹介されていたジッド宛て手紙におけるje languisの反復と「ナルシスは語る」冒頭部のje languisの反復の対応などは説得的です。ここから思われるのは、若い頃のマラルメの詩の多くが、理想の詩を書けない絶望を歌った「詩人の詩」すなわち「メタポエム」だったのと同様に、ヴァレリーのこの「ナルシスは語る」もまた、メタポエム的に読むことができて面白いということです。さて、「ナルシスは語る」についてはまだまだ論は尽きないのですが、先に進むことにします。来週は「挿話」と「眼」を読みますので、予習をよろしく。