今日から、1932年のヴァレリーのエッセー「マネの勝利」の読みに入り、p.166右側13行目まで、ゆっくりと読みました。実にしゃれた冒頭です。たとえば18世紀のフランソワ・ブーシェなどの絵で有名な寓意画「ヴィーナスの勝利」を下敷きにして、仮に「マネの勝利」という絵を描くとすれば、マネの周囲にドガやモネやルノワールやモリゾらの画家の一群が配される一方で、それとは別に、ボードレールやゾラやマラルメらの文人の一群も配されることになるだろう、という次第で、ヴァレリーは「マネの勝利」という、想像上の、いわば「テクスト絵画」を描いていきます。冒頭に置かれた銘句《Manet et Manebit.》も洒落が利いています。彼は(絵画史のなかに偉大な存在として)留まり、留まり続けるだろう。manere(=rester)というラテン語動詞をManetにからめたコトバ遊びです。こういう凝った文学的散文の妙は、梅雨の鬱陶しさをいっとき忘れさせてくれます。次回は特にボードレールとマネについて、両者の作品レベルでの密接な関わりが述べられます。予習をよろしく。