今日は、パトリック・モディアノの1997年の名作『ドラ・ブリュデール』(邦題『1941年。パリの尋ね人』白井成雄訳、作品社、1998年)を紹介しました。フランスは1940年6月22日の降伏から1944年8月25日のパリ解放までの約4年2ヶ月の間、ドイツの占領下にありました。そして、1942年から44年にかけて、多くのユダヤ人が捉えられ、ドランシーの「待合」所からアウシュヴィッツ絶滅収容所へ移送されました。そのうちの一人の少女とその家族、そして、自分自身と自分の父親のエピソードも交えつつ、モディアノは、「ショアー」(ユダヤ人大量虐殺/ジェノサイド)という重いテーマに、ドランシー収容所に送られるまでの少女の「痕跡」をひたすら追いかけることによって、また、公文書など、残された客観的資料に基づいて、大げさな文体を用いることなく、実に淡々と迫っていきます。18区オルナノ大通り界隈、12区ピクピュス通り界隈、そして、20区モルティエ大通りの元「レ・トゥーレル収容所」界隈……。この物語(小説と言い切ってよいのか、難しいところです。虚構もあるでしょうが、ルポルタージュ的な要素も大きいです)には、モディアノのほかの作品と同様、数多くの通りの名前が登場しますが、いつも以上に、通りの影というか色合いが濃くにじみ出ていて、霊的な気配すら含んでいるように思われます(実際、モディアノは、北駅のあたりで、ドラの気配を強く感じた、と書いています)。熟読玩味して「勉強」すべき「パリを歩くテクスト」の傑作です。さて、私が一方的におしゃべりをする講義はこれにて終了となります。長らくお付き合いくださりありがとうございました。来週は、筆記試験を実施します。テーマは、以前お知らせしたとおりです。皆さんの健闘を祈ります。