今日は、「パリの城壁」について、主として、宮下志朗先生の『パリ歴史探偵術』(講談社現代新書、2002年)という素晴らしい本を大いに参照させていただきながら、いろいろな資料を使って、解説してみました。シテ島の城壁から始まって、まず12世紀末のフィリップ・オーギュストの城壁、そして、その右岸部分を特に拡大した14世紀末のシャルル五世の城壁、次に、18世紀末の徴税請負人の城壁を経由して、最後に、ほぼ現在のペリフェリック(パリ環状道路)と重なるティエールの城壁へと至る膨張の様子、同心円がだんだん大きくなっていく様子が、しっかり見て取れたことと思います。それぞれの城壁の痕跡は、たとえば、シャルル五世の城壁跡はいわゆるグラン・ブールヴァールになり、徴税請負人の城壁跡は地下鉄の2号線と6号線になっているといった形で、現在のパリの街に、しっかり残っています。そうした都市の基本構造を知っていると、文学作品を読むときにも、ちょっと面白い理解の仕方ができるかもしれません。今日は、宮下先生も紹介されていた、ネールの塔の逸話にちなんで、ヴィヨンの『遺言詩集』から有名な「(昔の美女たちの)バラード」を読み、ヴィヨンのこの詩を味わい深いシャンソンにアレンジしたジョルジュ・ブラッサンスの歌声にも耳を傾けてみました(いい曲ですね)。それと、特にシャルル五世の城壁の内と外を区別する指標として、フォーブールFaubourgという単語に注目し、地図で道の名前が変わるということを確認した後、ボードレールの『悪の華』所収の詩「太陽」を読んでみました。「古いフォーブールに沿って」詩人は詩を探しにパリの街を歩きます。フォーブールという言葉のニュアンスを知っていると、また、ひとつ理解が深まるのではないでしょうか。さて、今日は、いわば番外篇でしたが、次回はまた作品テクスト中心にお話したいと思います。パリ文学散歩は、ゴールデンウィーク明けの5月13日に、そろりそろりと再開することにいたしましょう。比較的ゆっくりできるかもしれない連休の日々、少し、本を読むのもいいですね。では、また。