今日は、パトリック・モディアノの『暗いブティック通り』(1978年)から、第24章と第25章を取り上げ、地図を参照しながら、主人公の「過去探し」に付き合ってみました。第24章を読んでいるうちに時間が来てしまいましたので、第25章については、来週、読むことにしたいと思います。モディアノの文章は詩的です。例えば、今日読んだ第24章で言うと、スクーフィという老人の白い服の、あの燐光のようなほのかなイメージがたまらなくいい感じです。ぼんやりと白く浮き上がる服のイメージは、この小説のテーマ(結局明らかにはならないアイデンティティ探しの旅)とも密接に関わっているようです。この小説には、パリの通りの名前(固有名詞)がたくさん出てきます。記述される道の名前、広場の名前、そのひとつひとつが、まるで生き生きとした登場人物のように、テクストを立体的に彩っています。私たちは、この小説を読みながら、或る特別なパリ散歩の愉しみ、というか、失われた大切なものの記憶と結びついたノスタルジックな散歩の少しばかり切なく哀しい愉楽のようなもの、そんな気分をしっとり味わうことが出来るように感じます。地図を片手に想像界の散歩を試みるのは、モディアノのこの小説を読む場合、とりわけ、面白い経験ではないでしょうか。来週も、モディアノについて話を続けます。