今日はル・クレジオの初期の短編集『発熱』(1965)から、表題作の「発熱」と二番目の短編「ボーモンが痛みを知った日」の一部を紹介してみました。「発熱」の主人公ロックが、熱病にうなされて経験する「奇妙な旅」の部分は、細かく味わってみるに値するところです。こうした幻覚的なヴィジョンは、悪い風邪などひいて高熱が出た時に見る悪夢のような感じがしますが、なかなかリアルですよね。ああしたエクリチュールの試みは、たとえばランボーが有名な「見者の手紙」で言った「あらゆる感覚の撹乱によって見者になる」ということ、「未知なるものへ到達する」ということと、いくらか関連付けることができるかもしれません。ル・クレジオは実はランボー好き、というのは中地義和先生に教えていただいたことがあります。あの「奇妙な旅」の部分、フランス語原文を参照しつつ、じっくり味わって読んでいただければ、空間が歪む奇妙なイメージを何とか感覚的に表現しようとするル・クレジオの努力というか文章の力強さがよりよく感じ取れると思います。来週は、ル・クレジオと並んで、根強い人気を保つ小説家、パトリック・モディアノを紹介する予定です。『暗いブティック通り』(1978)、手に入る方は、是非、読んでみてください。