今日はミラン・クンデラの『冗談』(1967)と『不滅』(1990)の一部を紹介しました。『冗談』からは、クンデラの反抒情主義がもたらす強烈な「抒情」について、愛と性の不一致が生むアイロニーの場面を例に挙げて、説明しようと試みましたが、まだ十分ではなかったように思います。『不滅』からは、現代社会の「キッチュ」(俗悪・画一主義・無批判性)への嫌悪を詩的な描写でさらりと描いた部分を取り上げましたが、こちらも十分な時間がなく、急ぎ足の説明に終わってしまいました。詩人を捨てたはずのクンデラですが、クンデラの文章のそこかしこにキラリと光る描写は、まさに詩的としか言いようがなく、小説家クンデラをしっかりと支えているのは詩人クンデラに他ならないのでは?というのが私の個人的な印象なのですが、まだ説明不足でしたね。授業の冒頭でお話したように、今期は、どうやら、クンデラとデュラス、この二人の作家を軸に展開することになりそうです。「なりそう」というのは、確実にそうなるかどうか、断言できないからですが、多分、この二人の作品に触れることが多くなるのではないかと思います。クンデラチェコ人、つまり、フランス人から見れば外国人ですし、デュラスは旧フランス領インドシナ(今のヴェトナム南部)で生まれ育った女性作家です。この二人を取り上げるということと、二十世紀後半のフランス文学について何かを語るということとは、あるいは、緊密な関係があるやもしれません。本当に、今期は、先が見えませんが、とりあえず、来週は、デュラスの『モデラート・カンタービレ』について話をする予定です。長くない小説ですので、是非、読んでみてください。ひとり語りは結構孤独なもので、受講生の皆さんの中に、一人でも「読みましたよ」という顔があると、連帯というか共謀の感覚が生まれ、それによって孤独感は薄められます。今日は、クンデラとデュラスの作品名をいくつか挙げましたが、主な作品は、ほとんどが邦訳されていますので、とりあえず、どれか、読んでくだされば幸いです。