今日はセリーヌ『夜の果ての旅』の続きです。「郊外」がどのように表象されているか、いくつか具体例を挙げて、先週に続いて大雑把なパリ郊外の地図(特に北西部のセーヌ河が大きくカーヴしているあたり)を参照しながら読んでみました。ランシイという地名はranci(「すえた」「酸敗した」)を想起させます。とりわけ、郊外の現実(健康で働くより病気で生活保護年金を受けるほうがよいと考える人たちの様子)を描いたシーンは、現在のパリ郊外の現実(堀江敏幸さんのエッセイ「仮設避暑地の陽光」を紹介しました)にも通じるものがあります。キレイなだけではないパリ、リアルなパリが、1930年頃のパリ郊外を描いたセリーヌの文章から浮き上がってきて、苦い感動を与えてくれます。こういうネガティヴな感動、というか、「短調」の感動もまた、まちがいなく、フランス文学を読む面白みのひとつといえるでしょう。さて、来週と再来週は、根強い人気を維持するサン=テグジュペリの作品を紹介します。とりあえず『夜間飛行』『人間の大地』『星の王子様』の三つの作品を取り上げたいと思います。全部でなくて結構です。どれかひとつ、読んでおいてくだされば幸いです。