今日は「二重の部屋」の続きです。まず、ひととおり最後までテクストを読んでから、続いて、全体の構成について、日本のボードレール研究者山田兼士さんの『ボードレール《パリの憂愁》論』(砂子屋書房、1991年)から「二重の部屋」を論じた部分(同書pp.177-218.「二重の部屋」の位相)を一部紹介しました。「アルセーヌ・ウーセイに」と「駄目なガラス屋」を読んだ後なので共通点もよく理解できたのではないかと思います。Fuseesの中に記された「二つの根本的な文学的性質:超自然主義とイロニー」の理念を一方の参照軸とし、他方に「魂」と「精神」さらに両者を眺めるメタ意識を置くことで、「二重の部屋」のテクスト世界の重層性がよりよく見通せたのではないでしょうか。夢想による《魂》の拡散の夢を超自然的に描いた前半部と現実認識による《精神》の覚醒をイロニックに描いた後半部分の対照、そしてテクスト中心部におかれた「扉をたたく音」が、「魂の抒情的運動」と「夢想の波動」に身をゆだね心地よくまどろむ《魂》に痛撃を加え「意識の突発的揺動」を引き起こす覚醒した《精神》の一撃に他ならないとする山田さんの論は、とても力強く、面白いと思います。卒論や修論を準備する皆さんには、研究書や研究論文から面白く参考になる部分を見つけてきて、効果的に自分の論文に引用していただきたいと思います。漠然と感じている部分に明確な言葉を与えてくれる論文は是非とも引用して、共通の問題意識の場をはっきりさせ、そこに自分の身を置くという身振りが大切でしょう。さて、次回は14番「年老いた大道芸人」のテクストを読みます。今日はなぜか欠席者が多かったようです。コピーを研究室の机に置いておきます。予習をよろしく。