今日はジッドの実験的前衛小説あるいはアンチ・ロマンあるいは「失敗した傑作」、『贋金つくり』を紹介しました。官能的・耽美的な『シェリ』を読んだあとだと、特に、ちょっと何コレ?という感じの作品ですが、これといった筋とか中心的テーマとかはない小説なので、作中のあちこちに出てくる文学談義の部分を集めてお話をしました。『贋金つくり』はメタ小説です。小説批判あるいは文学論がたくさん出てきます。しかし、まじめな文学論というよりも、mise en abyme(入れ子構造)のなかで登場する小説家エドゥワールの熱を帯びた演説が空回りして、ローラやソフロニスカ夫人やベルナールに呆れられるシーンに特徴的なように、こうした文学談義自体も、このメタ小説の鏡に映った映像であって、効果としては、これはかなりコミックな、そして、皮肉に満ちたテクストなのではないかなあ、という印象を持ちました。のちのヌーヴォー・ロマンの先駆と言われることもあるこの作品、ジッドは相当の力を入れたようですが、小説を壊そうとした小説は、やはり、最終的には「既成の心理学」によって否認されるのがさだめなのでしょうか?個人的には、ラスト近い、ボリスの自殺のシーンがどきどきしました。ハードボイルドな終わりの印象もあって、とにかく「変な感じ」が残ります(これがジッドの狙ったところかもしれません)。