開講しました

 第一回の今日は、授業概要、成績評価の方法などを説明したのち、「ベル・エポック(美しい時代)」をキーワードに、松浦寿輝さんの見事な論文「ヴァレリーベル・エポック」(『ユリイカ』1992年12月号所収)を参考にしながら、ヴァレリーの1919年のテクスト「精神の危機」を紹介しました。松浦論文では、ベル・エポックとは第一次大戦後の時代が要請した「虚構」(幻想/神話)に他ならないということが、印象深く断言されています。そして、ベル・エポックという概念を最も鮮烈に表現しているのがヴァレリーの「精神の危機」というテクストであるとして、「古い価値の体現者」ヴァレリーが、時代の「懐古的ファンタスム」を投影しやすい格好の対象であり、まさにベル・エポック的な人物であることが示唆されます。ヨーロッパ文明の危機は、多様性と混淆性の極限においては単一性と均質性の力の脅威にさらされざるをえないという近代主義の極限のパラドクスに他ならないというヴァレリーのテーゼを、松浦論文はわかりやすく示していました。実際、ヴァレリーの「精神の危機」の冒頭を(特にフランス語で)少し読んでみればわかるように、それは、格調高くも軽快な、朗々とした文章です。松浦さんにならって言えば、ヴァレリーのこのテクストが持っている、こうした軽快で朗々とした感じそのもの、「軽やかでウイッティな書きぶりそれ自体」が「ベル・エポック的」といえるかもしれません。今日は文明批評的かつ抽象的なテクストを読みましたが、次回は、今日のテクストの補足を少ししてから、ベル・エポックをより風俗描写的かつ具体的に感じさせてくれるテクスト、たとえばプルーストの『失われた時を求めて』などを紹介してみたいと思います。今日の話に興味を抱かれた方は、是非、「ベル・エポック」についていろいろと調べてみてください。では、また来週。