発表(1)

 受講生の皆さんによる、都市の文学をめぐる発表の第一回。今日はまず、男性のS君が井原西鶴世間胸算用』について、当時の社会状況が鮮やかに描かれている点に触れたあと、人情話の側面が際立つ「小判は寝姿の夢」の特異性を指摘し、その背景として、西鶴自身の伝記的事実の投影があるということを、年表などを基に、的確に示してくれました。金銭をめぐるハードボイルドな描写の凄みや、登場人物の匿名性に現代都市の抽象性と同質のものが感じられる点など、生き生きとした西鶴像が浮き彫りにされた好発表でした。続いて、今度は、女性のSさんが森鷗外の『舞姫』について、前田愛『都市空間のなかの文学』で紹介されている二枚の写真と一枚の地図を手がかりに、主人公・太田豊太郎の二つの世界(ベルリンの二つの地区)の往還、広く明るく新しいウンテル・デン・リンデン大通り(父の論理)と狭く暗く古いクロステル街(母の論理)で引き裂かれる近代人・豊太郎のいかんともしがたい悲劇の構造を、彼の心象風景の変化を中心に、淡々と、しかし、力強く示してくれました。「闘う家長」森鷗外も、最後には「石見の人・森林太郎として死せんと欲す」といった話など思い出され、実に面白い発表でした。このように、受講生の皆さんの、血の通った、ヴィヴィッドな発表を聴くことができるのは、授業主宰者として心の底から喜ばしいことです。来週も、とても楽しみです。担当の方々、どうぞよろしくお願いします。