最終回の今日は、ヴァレリー『私の見るところ』所収の「芸術の創造」(1928年1月のフランス哲学協会での講演)のp.296の真ん中あたりまで、読みました。残りの部分は論点のみ触れました。今日読んだところでは、何といってもp.296の上から二行目のinacheveという形容詞が最大の問題と言ってよいでしょう。これは文脈上明らかにacheveとするのが適当ですが、ヴァレリーがinacheveと書いてしまった理由もよくわかります。続く二つの段落で見られるように、ヴァレリーの作品制作論の根幹にはinachevementの詩学が確固としてあります。作品制作に「終り」をもたらすのは、作品そのものではなく、それはただ、作品そのものとは無縁な外的な事情(分量や締切や疲労や自己満足など)にすぎず、「完成」とはじつは、さらに進展変化を内的に続けていったかもしれないものの外的事情による「放棄」や「停止」に過ぎない、という考え方です。このinacheveをめぐっては、とても興味を惹かれましたので、折を見て講演の予備ノート草稿などがあれば調べてみたいと思います。さて、今年度は、ヴァレリーの芸術論「芸術についての考察」を精読し、年明けは「芸術の創造」の大部分を読むことができました。これで一段落ですが、もちろんacheveではありません。授業は常にinacheveのまま続いていきます。しばらく散文の読解が続いたので、来年度はナルシス詩群の読解を試みる予定です。関心のある方々のご参加を願っております。それでは、よい春休みをお過ごしくださいますよう。