最終回の今日は、1926年のエッセー「ベルト・モリゾ」のラスト、p.1306の最終行まで、無事、読み終えました。p.1305でヴァレリーは、息の長い疑問文を三つ、連続して繰り出しながら、不確実な内的生活の探究なるものが、はたして、感覚可能な外的世界よりもいっそうの観察や認識に値いするものなのか、疑問を呈しています。神秘主義的な内観ではなく、目によって十分にものを見ることのほうを重視するヴァレリーの感覚主義は、これまでも何度か紹介した、若い頃の評論『レオナルド・ダ・ヴィンチ方法序説』のなかの「彼らは穏やかな海面は水平だと知っているので、海が眺めの奥で立っているということを認めない」という一句のうちに、既にはっきりと述べられています。ヴァレリーの網膜主義は、現象と本質を見る象徴主義詩学と世界を純粋に眺める印象主義の絵画哲学と明瞭に重なっているように思われます。さて、これで、二年間つづけてきた「ヴァレリーと美術」の授業も一段落となります。来年度の各論(特論)は、ヴァレリーの初期の詩篇をじっくり読む予定です。関心のある方々は是非ご参加ください。とりあえず、来週25日締切のレポートを楽しみにしています。充実した春休みをお過ごしくださいますよう。
 お知らせです。2011年2月より、『ヴァレリー集成』全六巻(筑摩書房)の刊行が始まります。パンフレットの写真をご覧ください。私が編訳者のひとりを務める第五巻「〈芸術〉の肖像」(秋頃配本の予定)には、この授業で扱ったテクストも多く収録されます。どうぞ、ご期待ください!