最終回

 今日は、第49番「貧民を撲り倒そう!」のラスト部分を読んでから、第50番には行かずに(予告と違ってしまって申し訳ありません)、ひとつの詩篇を、辞書を引きながら、ゆっくり訳していただくことにしました。それは、ボードレールの『悪の華』のパリ情景の部に収められた「太陽」という韻文詩です。一年間の授業の最終回に当たって、パリを歩く詩人ボードレールというイメージを最もよく伝えるテクストに触れておきたい、と思って、この詩を取り上げました。主人公の「私」は、パリの古いフォーブールに沿って歩いていきます。それは、詩を獲得するためです。「街のあらゆる曲がり角で偶然がもたらす韻の気配を感じながら/敷石につまづくように語につまづきながら/時には長い間夢に見た詩句にぶつかりながら」、「私」は「私独自の一風変わった(fantasqueには「気まぐれな」の意味もありますが、ここはかなり意識的な感じがしますのでこう訳しておきます)剣術の練習をしに」街歩きをします。パリという都市が詩人の抒情の対象となること、街を歩くことが詩を作ることであること、ここには、散文詩集『パリの憂鬱』へと直結する「都市歩きの詩学」が十二音節という伝統的詩形式で堅固に宣言されているように思われます。パリ、都市、街、詩(テクスト)、歩行(遊歩、読むこと)――これらの魅惑的なテーマ群に囲まれて、私たちは、既に、迷宮のなかに入ってしまっているようです。それでは、また、お目にかかりましょう。