今日は「年老いた大道芸人」のテクストの残りを読みました。全体の解釈はなかなか難しいので、総論的なことが言えない代わりに、各論的な細部をめぐって、非常に明快なテクスト分析の一例として、ジェローム・テローさんの論文の一部(第三段落を詳しく読解した部分)を紹介してみました。ここはなかなか見事な、というか、安定した論の進め方をしているところだと思います。まずベンヤミンの文章(差異と非差異、一と多の同時顕現)を引用することから始めて、ボードレール的遊歩者(語り手)の両義性を浮き彫りにし、続いて、ボードレール自身の二項対立的表現(自我の集中凝縮と自我の拡散蒸発、神または精神性とサタンまたは獣性)を参照しながら、echappent difficilementという表現の逆説性をさらに際立たせていき、続いて、こうした差異/非差異、一/多、神/サタンの往復運動が、第二文のabsorbent, sans le vouloirという表現の逆説性にも見られるという指摘を重ねていく手並みは、論文(卒論や修論)を準備する皆さんにも大いに参考になるものだと思います。長い時間をかけて知識が定着していくなかで、相同性(類似性)による整理が行われ、反復に基づいて命題の理解が深まっていくと同時に、相同性に(あるいは対照性に)気づいていく経験がそのまま論文の文章に反映されるならば、そのようにして書かれた文章というのは、おのずと、生き生きとした説得的な文章になるのではないか、と思います。さて、この授業も残すところあと三回のみとなりました。ある意味で「年老いた大道芸人」の遠い延長という要素もあるかもしれない、もうひとつの「芸人もの」、第27番の「英雄的な死」をじっくり読みたいと思います。