今日はまず発表を三つ聞かせていただきました。サガンの『ブラームスはお好き』における孤独と恋愛のテーマ。バルトの『零度のエクリチュール』におけるエクリチュールの概念をめぐって。バルトの『批評と真実』における「旧批評」批判の射程。いずれも面白く拝聴しました。残った時間は、ヌーヴェル・クリティック(新批評)の文学史的意義について書かれた文章を紹介しました。作品の自律的機能性を重視した内在批評とレクチュールの複数性擁護は新批評の柱ですが、これは、旧批評(講壇批評/ソルボンヌ的実証主義批評/ランソン的批評)の決定論的外在批評(「環境」「源泉」「客観性」)の行き過ぎに対する革命として起こったということをよく理解する必要があるでしょう。文学テクスト研究に従事する私たちとしては、外在と内在、両方の目配りが必要です。最後に、文学を味わうということと作者や創作をめぐる知識(伝記、草稿)との幸福な両立は可能か?という問いをめぐっていると思われるクンデラのエッセーの一節を紹介しました。アルベルティーヌのイメージがプルーストに関する伝記的知識によって撹乱されてしまう困った経験がユーモラスに描かれています。その先の部分では、芸術作品に関する「本質的なもののモラル」が、草稿などの細かな情報まで全部載せた「古文書のモラル」に席を譲ったのではないか、と、クンデラの筆致はやや辛辣です。草稿を調べる研究者としては「古文書のモラル」のなかに、時折、「本質的なモラル」と直結した光が輝く瞬間があることを信じたいのですが、クンデラは納得してくれないだろうなあ……。さて、この授業もいよいよ来週で最後となります。クレオール文芸のことについて、ちょっとだけお話したいと思っています。発表予定の方々も、どうか御準備のほどよろしくお願いします。